Banana Recipes

漫画 BANANA FISH の2次創作ブログです。 BANANA FISH 好きの皆様と仲良くしていただければ嬉しいです♪一部BL・R18あります。ご注意を。

1975年 アッシュ7歳。
マサチューセッツ州 ケープコッド カーレンリース家自宅。



静かな昼下がり。
アッシュは板張りの床に膝をつき手をつっぱり体の下に置かれた新聞を眺めていた。屋内は昼間なので電気がつけられておらず少し暗いが、窓から入る明りで十分事足りる。

まだ7才の彼には床の上に広げた新聞は大きすぎて、体の半分以上がその上に乗っている。見事な金糸の髪の毛が目にかかる。だが彼は気にした様子もなく熱心に新聞を読んでいた。

彼は聡い子供だった。彼の年齢にしては読める単語が多い。だた今彼が知りたい情報は彼にしても少し難しい。
新聞に書かれている文章で読めそうな単語を声に出して読もうとする。

「サイゴン・・・・ 完了・・・名誉あるてったい?」

アッシュが大好きだった兄は、彼が4歳の時戦争に行ってしまった。
14歳も年の離れたやさしい兄は弟である彼に非常に甘く、やさしく、彼が本気を出して泣きながら訴えたワガママで叶わない願いはなかった。

ただ最後の願いをのぞいては。

戦争に行くと言った兄を泣いて引き止めた彼の頭に置かれた手の大きさをアッシュは未だに覚えている。その手は母のいないアッシュには唯一甘えることのできる暖かい手だった。
その時のアッシュは幼すぎて、どうして兄が自分を置いていこうとするのか、どうして自分の願いが叶わないのか全く理解できなかった。ただ。『男の子だから泣くんじゃない』と言った兄の言葉だけが理解できた。それからアッシュは泣いたことがない。泣きたい時も我慢した。そうすれば兄は戻って来てくれるだろうか?

1967年の軍事選抜徴兵法によって制定された徴兵登録が義務化されていた。彼の兄であるグリフィンは18歳になり、登録を行った直ぐに徴兵の書類が送られた。

運の悪い――

カーレンリース家を知るものはそう同情し、またグリフィンとその父親に直接そう言う者もいた。

―――中には何年たっても徴兵の書類が送られてこない者もいるのに―――

だが、徴兵の要請を無視する事はできない。

幼いアッシュにはまだわからない。
ただ兄は自分を置いて出て行ってしまった。その一点を除いてはー。

「アスラーーーーン!なにやってんだよー!!。」

その時、外でアッシュを呼ぶ声がした。アッシュはその声に、声を張り上げ叫び返す。

「今いくから待ってーーーー!!」

近所の友達だ。アッシュは慌てて新聞の上から身を離す。

最近アッシュの周りでは岬の空き地で野球をすることが流行っている。数ヶ月前に引っ越してきた子供好きの退役軍人がこの辺りの子供達に野球を教え始めたのだ。そのチームの中ではアッシュとその友達が一番年下でチビだったが、面白いことに目がない彼らは嬉々として参加した。

『グローブとバットとボールが欲しい。』

一か八かで言ってみた彼の父親も、すんなりと彼に金を渡してくれた。そればかりか彼といっしょに街のスポーツ専門店まで行って一緒に選んでくれたのだ。父親は野球が好きなのだろうか。または自分の少年時代を思い出したのか。アッシュにはわからない。わからないが素直に嬉しかった。父親から買ってもらったグローブ等は今ではアッシュの宝物だ。

幼い彼は自分の境遇をそこそこ理解していた。

彼は父親の2番目の妻の子供らしい。
自分の母親とグリフィンの母親は違うらしい。
自分の母親はグリフィンの母親を追い出したらしい。
母は自分を置いていってしまった。
父親は彼の事にあまり興味がないようだ・・・。

幼い子供にも入ってくる街の噂だった。いや幼いから入ってくるのか・・。

彼は今、母屋で父親とその彼女と一緒に暮らしている。
グリフィンがいた頃は、母屋から少し離れたこの小さな離れで兄とアッシュで住んでいた。

さすがにそこで一人で住ませるのはまずいと思ったのか、それとも多少の愛情はあるのか。グリフィンがベトナムに向かってしばらくした後から、父親の店のある母屋に彼の部屋が用意された。だがいつまでたってもアッシュはそこでは眠らず離れに眠りに行く。

父親は買ってくれたグローブをアッシュに手渡しながら交換条件を出した。

『もうあっちの家で眠るな。』

その言葉に彼は素直にうなずいた。兄と暮らした離れで兄を待っていたかったけれども、父親が自分に興味を持ってくれた?
アッシュはその事が嬉しかった。

外からアッシュを急かす声が聞こえる。

「先いくぞー!!」

「すぐ行くってばーー!!!」

アッシュは外に聞こえるように声を張り上げてから、慌てて、しかし丁寧に新聞を折りたたむ。夜は母屋で眠っているが昼間にはたまにこうしてここに来る。そしてかつての自分の部屋にあるクローゼットの一番下の引き出しに新聞をしまう。
”ベトナム””サイゴン””終戦””帰還兵””デモ”そこはそんな見出しの新聞やその切り抜きでいっぱいだった。

床に転がしていたグローブとバットを慌てて拾い上げる。誇りっぽく暗い廊下を通り抜け玄関へと駆けていく。その瞳は少年らしい期待と輝きを放っていた。

彼は野球が好きだった。

友達もいっぱいできたし、なによりゲームが楽しい。

すばしっこい彼は盗塁が得意だ。ボーっとした内野手の隙とピッチャーの様子を見て、「今だ!」と自分で判断して走り出す瞬間がスリリングだ。彼より年上の少年達もアッシュの足の速さにはかなわない。

玄関のドアを開けて、まぶしく白い光の中に飛び出す。

その顔は笑顔だ。

家の前に転がしていた自転車に飛び乗った。

兄と一緒に住んでいた離れの脇を猛スピードで通りすぎ、友達とくだらない会話で笑いながら皆の待つ広場まで全速力で自転車を走らせる。

その肩には彼の父親が買ってくれたグローブとバットが片手で器用に担がれていた。












銃弾の音が辺りに鳴り響く。


発砲の反動で体が壁に押し付けられた。打った背中が痛い。
だがそれはすでに頭の中でシュミレーション済みだった。
狂い用のない近距離まで十分に相手をひきつけてから撃つ。

幼い彼は何度も何度も頭の中でこの状況を考えていた。

銃の撃ち方も。そしてこれからの事も・・・。

アッシュは生まれて初めて撃った拳銃を握り締めていた。
銃口から立ち上った白い硝煙はすでに消えていた。
重い銃が手から離れない。
知らずと目からは涙がこぼれる。
自分は泣いているのだろうか。泣かないと決めたのに。

時刻は日も沈もうとする夕方だった。
岬の先にあるこの家の窓と夕焼けの空を遮るものは何もなかった。
そこから差し込む赤い夕日がこの部屋と目の前の男を真っ赤に染め上げる。
アッシュは自分自身も真っ赤に染まっている事に気づいていない。
それは夕日なのかそれとも――

夕焼の赤で燃えるような窓の外からはパトカーのサイレンが聞こえてくる。
その音がアッシュのいるこの家の前で止まったのを他人事のように聞いていた。











父親が電話で叔母と話をしている。話題はこれからのアッシュの身の振り方のようだ。

「あいつはここには置いておけない。」

手には数日前の新聞が握られていた。あの新聞には先日の事件が書かれている。
”ケープコッドの青髭、自宅床下から多数の男児の死体が発見される。”
そして生き延びた唯一の少年の事も掲載されていた。
アッシュは電話口での父親の言葉を耳にしながら物音を立てないように忍び足で暗い廊下を歩く。

アッシュは思う。銃を撃とうと迷ったときからいろんな事を考えた。

とにかく自分は刑務所に入るのだろう。と思っていたが、「正当防衛」という言葉がアッシュを守ったようだ。

しかし、あんな目にあって人を殺してしまった自分を見る周りの目が変わった。

つらいのは友達が自分から目をそらし、自分に話しかけなくなったことだ。

銃を持ち出したときから決めていた。『ここにはいられない。』
めずらしく父と自分の意見があっていると思う。

アッシュは父親の寝室に忍び込んだ。ベッドサイドの棚の引き出しをそっと開ける。以前はそこに置かれてあった拳銃はない。

そりゃそうだろう。とアッシュは思う。

警察から戻された銃はアッシュにはわからない場所に隠されたのだろう。代わりに封筒に入った現金を見つけた。ポケットに無造作につっこむ。そして静かに廊下に出た。父はまだ電話をしている。新聞がぐしゃりと握りつぶされる音がした。

そのままアッシュは忍び足で家の外へと出て離れへと向かう。屋内に入って自分の部屋の引き出しを開けた。
またアッシュは夜になるとここで一人で眠っていた。
夜は悪夢で眠れないのだ。だがグリフィンのベッドに忍び込むと少しは眠れた。大事な新聞の切り抜きもこっちの自分の部屋のクローゼットにある。

昼間、物置と化している部屋から探し出したほこりっぽいリュック鞄にその切抜きを数枚を入れようとした。だがそこから1枚だけ抜き取り胸ポケットに入れる。

自分より大きいリュックを背負う。

自分と兄を繋ぐ手がかり。これだけは持って行かなければ。

アッシュはもう一度外に出て、そして勢いよく走り出した。
街の外れのモーテルに泊まっていたトラックの所有者が今晩ボストンに向けて出発すると聞いていた。
そのトラックの荷台に忍び込むのだ。

その夜は満天の星空だった。少し離れた海からは波の音と塩の香りがする。ここで育ったアッシュはその事に何の感慨もない。

ボストンには軍の病院があった。アッシュは記事を思い起こす。

アッシュは無意識に胸ポケットに手をやる。これだけは忘れてはいけない。
そこにはベトナム帰還兵がいる病院名と住所等が掲載された新聞の切り抜きが入っていた――










この話にお付き合いしていただいてありがとうございます。ほんとにほんとにありがとうございます。
ど、ど、どうでしたかねぇ。アッシュの過去。アッシュスキー様には辛いかなぁ・・・。
ここでアッシュはいくつかの選択をしてます。
最大の選択は自分にいたずらを仕掛ける男を打ち抜くという行為。
これやらないとアッシュもいつかは男の床下に眠らされたのかもしれません。(怖)
ここから”BANANA FISH”は始まったのかもしれません。なんて。
この話を書くにあたりいろんな裏設定を考えたのですが、あとがきに書くには長くなったので別記事でコッソリつらつらと書いておりますのでご興味のある方は読んでみてください。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。よろしければ次の”選択”もお付き合いください。^^。
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2013.05.10 11:52 | # [ 編集 ]

ちょこぱんだ様

こちらにもコメントありがとうございます!

「アッシュの大切な物(◯◯◯◯では無いんですね?(笑)) 」
(笑)正解ですよ?(笑)
実は私、ちょこぱんださんにはバレるんじゃないかとビクビクしておりました(笑)
が、いただいた前2つの記事に触れられてなかったので、だいじょぶかしら?
と思ってたんです。が、やっぱりバレたか(笑)ちょこぱんださんって多分丁寧に読んでくださってるんですよね?すごく嬉しいなぁ。いつもいつもありがとうございます(o^^o)バレたのにほんとに嬉しいです。
ま。大切なものっていうかなんて言うか。って感じデス。

「まだ、7~8歳って言ったら、命の重さなんてわかる年齢じゃないですもんね。 」
そうですよね。原作でアッシュは英二に泣きながら何も感じないんだ。と訴えるシーンがありますが、
あまりわかっていない幼い頃に人を殺しちゃったからマヒしちゃった。っていうのもありかもなぁ。って。
子供の残酷性ってあると思うのですが、
こうしたらこうなると理解は出来ても、それに伴う相手の感情を想像できないから簡単に惨酷な事もできるのだと、思っていたりします。
8才のアッシュは頭がよくて自分で解決策を見出した。でも情緒面では追いついていなかったという見方も、ありかな。なんて。そしてそのまま情緒に蓋をして大きくなった。いちいちその境遇に恐れていたら精神的に破滅しそうな人生ですよね。感情より常に理性を選択してきたけれども、英二の前では泣いちゃった。という。どうこれ。どうよ。

「辛い事ばかりなので、せめて、ラストは幸せにしてあげて下さいね。」
そりゃそうですよ!アッシュは生きてる設定に戻りますからね!

他にも色々コメントありがとうございました~。前2つのコメントは「プロローグ」 にまとめて返してますので、そちらをご覧ください。

なんだか嬉しいコメントありがとうございました!

2013.05.10 18:56 URL | 小葉 #jneLG44g [ 編集 ]












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