Banana Recipes

漫画 BANANA FISH の2次創作ブログです。 BANANA FISH 好きの皆様と仲良くしていただければ嬉しいです♪一部BL・R18あります。ご注意を。

―― とにかく。ぼくは頭の中を整理するためにこれを書いている。


誰かに読まれるとぼくが狂っちまったと思われるだろう。だから久しぶりに日本語で書こうと思う。ぼくは今―― というかここ十数年アメリカのNYに住んでいる。ぼくの周りには日本語が読める人はほぼいない。

もしこの内容を理解できる誰かがいれば、とうとうぼくの頭がイカれちゃったと考えると思う。
ぼくだって自信がない。ぼくが正気なのかどうかなんて。

でも、ぼくはここ数日のことを忘れたくなかった。だから今からその事を書く。
なんの変哲もない、いわゆる大学ノートにこれを書いていく。
文章を書くなんて学生の頃以来だからうまくかけるかわからないけど。忘れたくないことを、忘れてはいけないことを、順番に書いていこうと思うんだ。

事の起こりはどうだったか。

その日の朝ぼくは―― 



✳︎



「なぁ英二。引越しのこと考えてくれたか?」

シーツを被るようにベッドで丸くなって眠っていたぼくは、薄く目を開けてシンの方を向く。
シンはすでにシャワーを浴びたようだった。彼は勝手知ったる風体で、ぼくの家のぼくの寝室に備えられているぼくのクローゼットに近づいていく。

ぼくたちは―― ぼくとシンはつまりはそういう関係だった。一緒に暮らしてはいないのだけれど、ぼくのクローゼットに何着かの彼のワイシャツとスーツが常に用意されているような。もちろん下着も常備されている。日本式に言うと半同棲という言葉がぴったりだ。
いつの頃からこうなったのか正直あまり覚えていなかった。思い返せばNYに来てほとんどの年月をシンと過ごしている。
最初の二年以外はだけど。

ベッドに横になったままのぼくの視線の先では、シンがクローゼットから無造作に彼のワイシャツを取り出していた。
ぼくはそれをぼぅっと眺める。
ぼくより数周り大きくて、ほどよく筋肉のついた背中がこちらに向けられていた。
その背中にワイシャツが羽織られ、立てられた襟首に手際よくネクタイが通される。
クローゼットの扉の内側にある縦に長い鏡に彼が映し出されているのがここからでも見える。
シンは少し首を仰向け、鏡を見ながら、慣れた手つきでネクタイを結び始めた。

ちぇっ。サマになるよなぁ。

あんなに大きな手なのに、なんでも器用にこなすことをぼくは充分知っている。
彼とは何年の付き合いになるのだろうか。

ぼくの手よりも大きい彼の手は、中華料理を作るのが意外に得意だったりするし、
パソコンをタイピングするのはぼくより早かったりするし、
ここにちょっと物を置けたらなぁ。と言った僕の家の隅に日曜大工で上手い具合に棚を作ってくれたこともあった。
以前飼ってた犬を洗うことも彼に任せておけば大丈夫だったし、
NYを徘徊するように写真を撮るぼくの腕を引いてくれたこともあった。

眠気から完全に冷めないぼくは、そんなことをうつらうつらと考えながら、薄目を開けてベッドに横になったまま、ぼんやりと彼を眺めていた。そこで鏡の中のシンと目が合う。
「英二?」
ネクタイを結び終わったシンはぼくを振り返り、ベッドへと近づいてきた。そしてニヤリと笑ってこう言った。
「今おれのこと見てたろ」
見惚れてたのか?と冗談ぽっく彼が笑う。
そんな笑った顔も充分に男前だ。だけどぼくは5歳も年下の彼にからかわれるのがおもしろくなかった。出会った頃はチビだったくせに。
「……手が」
「手?」
「器用だなぁ。と思って」
シンの頭の上にハテナマークが飛んだ様に見えた。なんでそんな話になるかわからないようだ。ぼくはネクタイを結ぶ君がかっこよくって正直見惚れていたんだなんて説明する気などさらさらないない。くやしいので。
シンがぼくをじっと見た。ぼくの言動が変な時はシンはこうしてぼくの様子を見る。ぼくはちょっと過去に行動が不安定な時期があって、ずいぶんと彼に心配をかけたのだ。
「へぇ……この手がねぇ」
シンはそう言って口の端に笑みを浮かべ、その手で無造作にぼくの身体を覆っていたシーツをずらしていく。
「シン?」
シーツがずらされることによってぼくの裸が腰まで露わになった。別にはずかしがるような間柄でもなかったけど。だって数時間前までぼくたちは普通に恋人達が夜に楽しむようなことをしてたわけだから。でもぼくは、そのまま眠ってしまってさっき起きたばかりだった。ぼくだけ裸ってのもちょっとなぁ、と思ったその時、
「うわっ」
肌をなで上げられる感触にぼくは変な声を出してしまう。
シンの手がゆっくりと僕の腰から脇腹をなで上げてそのまま背中を辿りながら上がってきた。
「ちょっ」
ぼくはシンの手を押しのけるために体を起こそうとした。が、それより先にシンが覆いかぶさってぼくを組み敷いた。彼の手の最終到着点であるぼくの頬が大きな掌で包まれた。小さく笑いながら彼がぼくに聞く。
「おはよう。おれの器用な手に起こされたか?」
ぼくは彼を見上げながら答える。
「どちらかというと今、君の体重に起こされてるよ。重い。太っただろ?」
「……マジで?」
ウソだけど。
肯定の意味を込めるようにぼくはニコリと笑ってやった。
「ホントかよ……」
ぼくの笑顔にまんまと騙されたシンは脱力した。ぼくの肩に顔を埋めて。
「ちょっとシン。本気で重いよ」
ぼくは身じろぎをしてシンを押し返そうとする。シンはその動きを封じ込めるようにさらにぼくに体重を乗せて、ぼくをしっかりと抱きしめた。
「ほら重いって。シーン」
笑いながらぼくはシンを押しのけようとする。シンはぼくの肩に顔を埋めたまま笑って、「おれ太ったからしょうがねーよな」とぼくの上から退こうとしなかった。ぼくたちは笑いながらそんなやり取りをしばらく繰り返していた。
そんな感じでひとしきりじゃれ合った後、シンがぼくに聞いた。

「なぁ。英二。引越しのこと考えたか?」

だけど彼はぼくの返事も待たずに質問の回答を先延ばしにしようとする。

「……ゆっくり考えればいいさ」 
「考えたよ」
シンの緊張がほんの少しぼくに伝わる。ぼくはシンの目を見て答えた。
「一緒に暮らそう」
彼が目を見開いた。
「本当に?」
ぼくは頷く。
「本当だよ」
シンは真剣な表情でぼくにもう一度尋ねた。
「一緒に?」
「一緒に」
ぼくはさらりと答える。

すると、シンはベッドの上に起き上がり、Wooooo!と叫んで―― ほんとにそう叫ぶ人をぼくは初めて見たかもしれない――ぼくの脇に手を差し入れ、ぼくを起こし、勢い良くぼくを抱きしめ、そしてぼくの頭を両手で包み、キスをしてきた。

「ちょっ…シ…」

激しいキスにぼくは何も言えなくなる。
それは長いキスで、しかもその激しさにぼくは上手く息継ぎができなくて、酸欠になろうかという時、彼の唇が離された。
彼の両手がぼくの頬を包んだまま、彼の額がぼくの額にコツリと当てられる。

「愛してる。英二」

断られるかと思ってた。と彼は呟いた。

シンから同居の話を初めてされた時から答えはもう決まっていた。でもやっぱりシンがぼくの回答をさえぎって良く考えろと言ったのだ。それきり話題にならなかったから、ぼくはなんとなく返事を返しそびれていた。

「うん、ぼくも愛してる。返事が遅くなってごめん」

シンは笑って答えた。

「いいんだ。よかった」

そのよかったには色々な意味が含まれていることをぼくは知っている。
……ぼくはほんとうにシンには世話をかけたのだ。

「よし!十日以内に引っ越すぞ」

「え?」

「部屋はもういくつか決めてあるのさ。今度見に行こうぜ?」

その時、シンの携帯が鳴った。




―― 今考えてみると、このタイミングでこの時電話がかかってこなければ、ぼくはこの文章を書くことにはなっていなかっただろうと思う。

それは必然だっんだろうか。どうなんだろう。










「ここで……いいのかなぁ」

ぼくは古びた店の前に立って看板を見上げていた。




あれからシンは舌打ちをして携帯をとった。そしてなにやら中国語で話していた。電話を切った後、苦々しげにこう言った。

『今から上海に行かないといけなくなった』
『上海?今から?』
シンがうなずく。
ぼくは少しあっけに取られた。最近のシンは忙しいとは知っていたけれど。

以前のようにシンがふらりとぼくの部屋に遊びにくることも少なくなった。だから一緒に住むかという話になったんだけれど。これほどまでとは。

『たいへんだね。大丈夫?』
『ああ。いや…でも…なぁ』

シンが大丈夫と言う時は大丈夫な時だ。だけど歯切れ悪いその返答にぼくはもう一度大丈夫なのかと聞いてみた。
シンは顎に手を当てて逡巡した後僕に尋ねた。

『仕事は心配ない。ただ……お前今日ヒマか?』
『昼からマックスと会う予定があるけど』
『時間があれば俺の代わりに行って受け取って欲しいものがあるんだ』
『いいけど。どこだい?』

中華街だとシンが言った。店は小英に案内させると。
店?何か注文していたのだろうか。そうたずねると、シンは曖昧に、どうしても今日受け取りたいものなんだ、と答えた。

そうしてシンは慌ただしく着替えて―― 一連の行動でシンのスーツはしわくちゃになっていた―― ぼくの額に小さなキスを残して去っていった。

その後小英から電話が来て、お昼前にその店に連れていってもらうことになった。時間通りに小英が迎えに来たのだけど、そこでまた小英の電話が鳴った。
中国語で勢い良く何か話している。
電話を切った小英は申し訳なさそうにこう言った。
『ぼくも上海に行くことになりました』
何かトラブルでもあったのだろうか?あったんだろうな。だけど華僑の内部のことは、よっぽどの事でないと二人ともぼくには言わないし、ぼくも首を突っ込むつもりはない。

結局その場で小英が慌ただしく店への地図を彼の手帳に描いてくれた。それを破ってぼくに渡しながら申し訳なさそうにこう言った。
『英二さんに絶対に今日受け取ってもらうようにって言われてるんです。一人で行っていただけますか?』
わかったよ。とぼくはそのメモを受け取った。
『受け取ったら、シンの携帯に電話してくださいね』

ぼくは一人で中華街に到着して、迷いながらもなんとか辿り着いたその店構えを見上げて、小英の事を考えていた。あの後すぐに飛行機に乗らないと行けないと言って慌ただしく車を出していたけど、彼は無事に乗れただろうか?

「この店であってるのかなぁ」

ぼくはもう一度メモと看板を見比べる。
そこには簡単な地図の他に店の名前も漢字で書かれていた。

小英の字って意外に個性的なんだな。

つまり字が汚くて読めないのだ。そのメモを胸ポケットに入れて、ぼくはこの店で合っているのかどうか自信がないまま、その店のドアを開けた。

カランカランとドアにつけられたベルの乾いた音が店内に響いた。
店の天井の真ん中にポツリとつけられた小さな照明がいっそうその店を暗く感じさせる。
古びた小さな店は骨董品屋なのだろうか。
足を踏み入れると同時に左右によくわからない壷やら皿やら木彫りの置物やらが所狭しと並べられていた。
足元には無造作に額縁に飾られた絵画が並べて立てられている。
店の奥のカウンターの向こう側には男性が立っていた。店主なのだろうか、店の中なのに帽子を被っている人がいる。

「こんにちわ」

ぼくは挨拶をしてみた。
カウンターの向こう側にも品物がたくさん並べられており、店主はこちらに背を向けて、どうやらその棚の整理をしているようだった。ぼくに気づかないのだろうか。

「こんにちわ。あの……シン・スウ・リンの使いで荷物を取りにきたんですけど」

店主がようやくこちらを向いた。目深に被られた帽子に隠されて顔はよくわからない。
どうやらぼくの顔をじっと見ているようだ。小柄なその店主は僕より細くて小さかった。体型からして老人なんだと思う。
中折れ帽に、体に合った三つ揃えのスーツ。だけどそれはなんとなく着慣れてないような印象を受けた。

「あの、シンの……」

ぼくはもう一度言葉を繰り返そうとした。するとその店主がカウンターの下から小さな箱を取り出してカウンターにコトリと置いた。その手は細くて筋張っていてかすかに震えていた。老人特有の細かい震え。逆側の手には杖が持たれていた。彼はかなりな老齢なんだろう。

「これ。いただいて行っていいんですか?」

店主は無言で頷いた。
どうやらぼくの英語は通じているようだ。
ぼくはカウンターに近寄り、片手で充分に持つことのできる小さな箱を手にした。

「ありがとう。じゃぁ預かりますね」

もう一度彼は頷き、ぼくをじっと見ているようだった。

なんだか奇妙に感じたが、ぼくはそれを手にして店を後にした。


✳︎


ぼくは小さな包みを手に持ちながら、シンに電話した。
「英二か?店、わかったか?」
「うん。これどうすればいいんだい?」
「開けてみろ」
え?今開けるのかい?と尋ねたぼくに、今すぐだ、とシンが答えた。
ぼくはその場でゴソゴソと包み紙を破って小さな箱を開けてみた。
―― これ……」
「気に入ったか?」
シンはぼくにそう尋ねた。
中には腕時計が入っていた。骨董品屋で手に入れたということはアンティークなのだろうか。
「お前、前にそれ使ってみたいって言ってたろ?」
え?これはぼくのためのものなのだろうか。と思った時に、電話の向こうでシンが誰かと短く話した。中国語で。
「悪りぃ。行かなきゃなんねぇ、英二」
「なんだい?」
「誕生日おめでとう」

そうか。だから今日中にこれを取りに行きたかったのか。

今日はぼくの誕生日だった。朝から特にこの事は話題にならなかったけど
やっぱり覚えてくれてたんだ。
ぼくの心に何か暖かいものが広がる。

「……ありがとう」

できるだけ早く帰ってくるから、と言ってシンが電話を切った。

ぼくはその小さな箱をもう一度閉めて、ポケットの中に突っ込んだ。
しかし、いつぼくはこんな時計を使いたいって言ったのだろう。シンの勘違いなのだろうか?
だけど、今日中に渡したいと思ってくれた気持がうれしかった。
軽い足取りでぼくは歩き始める。マックスと待ち合わせの店へと向かって。


―― この時、ぼくやシンがちょっとでもこの小さな贈り物について言及していたら、今のこんな事態にはならなかったのだろうか。
あとからその店に行こうとしても、同じ店には二度とたどり着けなかった。


続く
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