Banana Recipes

漫画 BANANA FISH の2次創作ブログです。 BANANA FISH 好きの皆様と仲良くしていただければ嬉しいです♪一部BL・R18あります。ご注意を。

「ちりんちり〜ん。いらっしゃーい」
「ショーター!」

ぼくは夢の中のその店に駆け込んだ。相変わらず薄暗い店の奥のカウンターの向こう側にはスキンヘッドに黒いサングラスの男がいる。

「おれはショーターとやらじゃねぇって言ったろ?お前が見たいような顔に見てるだけだって。お前にとって説得力のある顔にな。俺はしがない時間管理人さ」
時間管理人?時間の妖精じゃなかったっけ?だけど今はそんなことを気にしている暇はなかった。

「この時計だけど」
ぼくはやっぱり今、夢の中でもこの時計を腕に巻いていた。

「お?どうだった?初めての時間旅行は、"ラベンダーの香りがする"とか言ってみたか?とぉ〜き〜を〜♪」
ショーターにそっくりな自称時間の妖精―― 時間管理人だったっけ?どっちでもいいし、もうショーターでいい―― がわけのわからない事を言って歌いはじめた。
だがぼくはそんな彼を無視してショーターに詰め寄る。

「これ。どうやって使うんだ!」
「どうって、針を合わせた時間になったらカレンダーの年月日に跳んだろ?」
「一度は戻れたけど……」

そう一度は戻ったんだ。戻りたくて戻りたくて仕方なかった“あの日”に。
そして―― ぼくは失敗した。彼を救えなかった。どこかで夢の中の出来事だと思っていたのかもしれない。だから全力を出し切れなかったのかもしれない。ぼくは後悔していた。

でも夢ではなかったのだ。なぜなら先ほどのテレビに、ぼくがそのとき乗ったタクシードライバーが出演していて。
そしてあの年――1987年には発行されていない紙幣を、あるおかしな客からもらったと言っていた。そのおかしな客とはぼくだ。ぼくは過去に戻ったとき現在の銀行から下ろしたばかりの新紙幣しか持っていなかったんだ。
ぼくはテレビに釘付けになった。
だけどテレビ特番の小さなコーナーだったそのタクシードライバーの話はすぐに画面から消えてしまった。

そんなぼくの様子を見て心配するシンには、体調が悪くて早く眠りたいからと言って帰ってもらった。

それからぼくは急いで時計の針を回した。そして試してみたんだ。今度は“あの日”の一日前に戻ろうと。丁度夜だったし、夜なら“彼”もきっとまだあの部屋にいるだろう。ぼくらが二年暮らしたあの高級マンションに。そこに行ってぼくは“彼”に忠告するんだ。ラオには気をつけろって!

だけど針を回して、その時を待ってみてもなんの変化もなかった。
時計の針を進めて何度かぼくは試してみた。だが全く過去には戻れなかった。

そしてぼくは腕時計を腕に巻いたまま眠ったのだ。

このショーターにそっくりな彼曰く時間の管理人に会えるようにと願って。

「同じ日に戻ろうとするんだけどさっばり戻れないんだ」
ショーターはぼくの顔をじっとみてから口を開いた。
「お前、この間の俺の注意事項を聞いてたか?」
「注意事項?」

ぼくは頭を捻る。この前、ぼくはショーターの言うことを全く信じていなかった。―― 死んだはずの男に夢の中で、お前が持っている時計はタイムマシンだと言われて誰が信じると言うのか―― 後半は早く目覚めたいと思うばかりで正直聞き流していた。

そんなぼくの様子をみてショーターはあからさまにため息を付いた。

「いいか。その時計はお前を好きな時間に連れて行ってくれる。だが、何度も同じ時に戻れるわけじゃねぇんだ」
同じ時に……戻れない?
もう“あの日”に戻れない?
「それじゃ困るんだ!」
「困るって言われても知らねぇなぁ。今からもう一回その時計の注意事項を全部言ってやるから今度はちゃんと覚えとけよ」

“彼”が死んだ日に戻れないと意味がない。ぼくは茫然とした。

「ひとつ――
そんなぼくを気にせず、ショーターが指を一本立てて説明し始めた。
「一度戻った“時”の前後1ヶ月には戻ることができない」
1ヶ月。長すぎる。
「どうして」
「同じ時空に何度も歪みを作るわけにはいけないからだ」
「一度ならいいの?」
もちろんダメだ。とショーターは肩をすくめた。
「だが、その時計がお前を気に入っちまったんだからしょうがねぇ」
この時計がぼくを?まるで時計に意思があるようなショーターの言い方にぼくは違和感を感じた。


ショーターが二本目の指を立てた。
「二つ目、過去の自分には絶対会うな」
「会ったらどうなるんだい?」
「お前、過去に年食った自分と会ったことがあるのか?」
「ないけど……」
「ならそういうことだ」

「三つ目、過去の親しい人に自分の事を気づかれるな」
「なんで」
「あー。なんでなんでうるせぇよ。お前、家族や仲間から“お前にさっき会ったけどあれ未来のお前だよな?”とか聞かれたことあるか?ねぇだろ?あったら困るんだよ」
「気付かれたらどうなるんだい?」
「さあ……どうするか……そいつの記憶を消すか、その存在自体を消すか」
「本当にそんなことするのかい?」と聞いたぼくに、時間管理人はニヤリと笑って、お前次第だ、と答えた。

「最後だ。未来の日付には設定するな」
「未来なんてどうでもいいんだ。それよりもう一度戻りたい日があるんだ」
「ダメだ」
「どうして」
食い下がるぼくにショーターは手をヒラヒラと振った。
「聞きたいことは聞いたろ。今日はもう帰れ」

その言葉と同時に、ぼくの視界が霞む。
ぼくは見えなくなっていく自分の目に手を当てた。これは……目が覚めるということだろうか。

「ショー……」

どんどん白けて行く視界の中で時間管理人がぼくに声をかけてくる。

「その時計を身に付けて眠った時には、いつでも会ってやるよ」

待ってくれ。ぼくは“あの日”以外に戻っても意味がないんだ。

どんどん目の前のものが白くかすれていった。世界が眩しい白色で染まって行く。そしてすべてが真っ白になったその時――



『お前のなすべき時になすべき事を為せ』



ぼくの頭の中に声が響いた。



―― あの声は誰の声だったのだろう。時間管理人の声ではなかった。聞いたことのある声だったけど、ぼくは今でも思い出せない。



✳︎



ベッドの上で目を薄く開けた。
ぼくは横向きで眠っていた。窓からは朝の白い光が差し込んで寝室を穏やかな光で包んでいる。窓の外からは小鳥のさえずる声が聞こえてくる。いつものぼくの部屋のいつもの朝。

目の前にあった右腕に巻かれている時計を眺める。

夢……じゃないよね。

これがもし本当なら。
“彼”を救えるかもしれない。
ぼくは時計をマジマジと見た。
決定的な“あの日”には失敗してしまったけど。

ぼくはさきほど頭に響いた声を思い出した。

『お前のなすべき時になすべき事をなせ』

そう。問題はいつに戻って何ができるか。だ。
ぼくは考える。
どうやったらあんな結果にならずに済んだんだろう。

考えろ考えろ。

ラオが彼を刺さなければよかったんだ。
過去に戻ってラオを説得する?
でもぼくほラオがどこに住んでいたのかすらわからない。シンの兄弟だけど。直接話したこともなかった。

ラオをけしかけたのは月龍だという噂を聞いたことがある。
じゃぁ月龍の命令を止める?にしても、それもうまく行く気がしない。
だいたいやっぱり月龍がどこにいるのかもわからなかった。彼は暗殺を防ぐために、NYにあるいくつもの李家の屋敷を定期的に転々としていたようだ。

ぼくはどうして何も知らないんだろう。
あの頃のぼくは、ぼくと”彼”のことで精一杯で。しかも”彼”はぼくに何一つ裏社会の事を教えてくれなかった。そういえば”彼”はいつしかぼくが銃を持つことすら嫌がった。出会った頃は持たせてくれていたのに。

あの頃のラオと月龍を知っているのは……。

シンだ。

ぼくは頭を振った。
ダメだ。シンには聞けない。でもぼくはチャイニーズに知り合いがいない。

ぼくがあの頃の事で知っていることと言えば、ぼくたちが住んでいたアッパーイーストの高級マンションと、その向かいがコルシカマフィアのビルだったこと。リンクスの仲間数名と“彼”のダウンタウンのアパートとリンクスの溜まり場であるバー。

ダウンタウンの溜まり場?

ぼくの中で何かが引っかかった。もう一度最初から考えてみよう。“彼”を助けるためには何をすればいいのか。何ができるのか。考えられることは全てやってみよう。

何回も何回も――



―― そしてぼくは、ここから何度も過去に戻ったんだ。



きみを助けるために。


続く
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