Banana Recipes

漫画 BANANA FISH の2次創作ブログです。 BANANA FISH 好きの皆様と仲良くしていただければ嬉しいです♪一部BL・R18あります。ご注意を。

ふっと、白い光と燃えるような熱さから抜けた。

ぼくは目を開く。
頭はまだガンガンと痛み続けている。
「大丈夫かい?英ちゃん」
誰かがぼくに声をかけた。
ここはどこだ。
ぼくは―― 車椅子に乗っていた。伊部さんが心配そうにぼくを覗き込む。

伊部さん?

「少し眠っていたみたいだね。飛行機の時間までまだ寝てていいよ」
ぼくは自分の手を見た。
―― ここは?」
「なんだい寝ぼけてるのかい?英ちゃん」
伊部さんが呆れた声を出した。
「ここは空港だよ。今から飛行機に乗って日本に帰るんだろ?」
どういうことだ?
周囲を見渡せば、大きなガラス張りの窓の外には何台もの飛行機が並んでいた。そこは空港のゲートの中だった。
ぼくは立ち上がろうとした。
「痛っ―― 」
左腹に引きつったような痛みが走る。ぼくはもう一度車椅子に座り込み脇腹を抑えた。
「おい英ちゃん。日本に帰れるほど回復したと言っても、まだあんまり一人で立っちゃいけないってお医者さんにいわれたろ?まだ抜糸してないんだし、帰ったらすぐ日本のお医者さんにみてもらおう。日本語でね。」
日本?
「ぼくたち、今日帰るんですか?」
「おいおい英ちゃん。本当に大丈夫かい?」
不審気な顔をする伊部さんをぼくは見上げた。

伊部さんが、若い。

どうやらぼくは、”あの日”に来ることに成功したみたいだ。

ぼくは自分の手をもう一度見た。
ぼくは……ぼくも若返っている気がする。ぼくはあの日のぼくの中にいるようだった。どうして……。

ぼくは伊部さんに聞いてみた。
「アッシュは」
ああ。と伊部さんが気まずそうな顔をした。
「アレックス達にぼくたちが今日帰るって伝えてもらったはずだけど、まだ来てないようだね。さっきシンに渡した手紙、きっと彼に届けてくれるよ」
「今日帰る……手紙……」
ぼくは伊部さんの言葉を鸚鵡のように繰り返した。

どういうことだ。

ぼくはショーターの言いつけを守らず、時計を未来の日付に設定した。そしてたくさんの糸をたどって……。

―― 英二。

誰かがぼくを呼ぶ声がしてぼくははっと顔を上げた。

「英二!おれたちまってるぜ!」
「戻ってこいよなっ」
「忘れンなよーッ!」
ゲートの向こう側から、アレックス、ボーンズ、コングが手を振っていた。
数年前に見た風景。いや……。
シンがいない―― 。シンはアッシュに手紙を渡してくれて、そして伝言を預かってきてくれたはずなのに。

その時小さなシンが走ってきて3人をかきわけた。ぼくに向かって叫ぶ。
「英二!」
大人のシンはどうなったんだろう。無事に未来に帰れたのだろうか。
「英二!来い!あいつを助けにいかないのか!!」

シン?その言葉にぼくは悟った。あの小さなシンの中にいるのはぼくと同じ……。

「お前はそのためにここに戻ったんだろう!」
ぼくたちの目が合う。そしてシンがうなずいた。
「早く!」
もう一度呼ばれたぼくは立ち上がった。

「英ちゃん?」
伊部さんがぼくの肩に手を置いて、ぼくを車椅子に座らせようとした。
「ごめんなさい!!」
ぼくは伊部さんに車椅子をぶつけた。
伊部さんはそれをうけとめられず、尻餅をついた。
「英ちゃん!何するんだ」
「アッシュを助けにいかなきゃならないんです!」
「来い!英二!」
シンがぼくを呼ぶ。ぼくは痛む脇腹もかまわず、シン達の下に走って行って柵を飛び越えた。

アレックスがシンを見る。
「お……おい。シンどういうことだ」
「アレックス、お前らのボスを助けたかったら伊部を止めておけ!」
立ち上がって顔を真っ赤にさせてぼくを追いかけてくる伊部さんを見ながら、シンがアレックスに命令した。それにアレックスも答える。
「わかんねーけどわかったぜ!」
「コングたちは一緒に来い」

シンに命令されて、残りの二人はわけもわからないままぼくらについてくる。
ぼくに肩を貸してシンが走り出す。ぼくはあまり早く走れなかった。
脇腹が痛いのもあるけど、頭痛がひどい。

「お前ら先に行って車を調達しておけ」
「りょーかい」
ボーンズが答えてコングと一緒に先に走って行った。

「シン。きみシンだよね」
ぼくは自分で言ってもおかしな質問をシンに投げかけた。
「ああ。本当のおれはとっくの昔に成人してるぜ」
「ぼくもそうだよ」
「どういうことだ?」
さっきまで自分達の体はそのままで、過去にもどってたじゃないか。とシンがぼくに問う。
「わからない。でもそんなことどうだっていい」
アッシュを助けられる可能性があるなら。
「だな」
そしてぼくらは無駄口を叩かず、空港の駐車場まで走っていった。
遠くでコングがぼくらに向かって手を振っている。ぼくらはそこまで走った。

「どうしたんだい。この車」

近寄ってみると、ボーンズが見知らぬ車に乗っていた。
見れば、車の窓は破壊されており、車内を覗いて見ると、車の鍵の装置の部分がどうやったのか、上手いことひっこぬかれて配線が引き出されていた。
コングの右手が少し血で濡れている。
運転席に座ってなにやらしていたボーンズがその配線と配線をつないでいた。
「ほらよっと」
するとエンジン音がかかった。
「すごい」
ぼくは、長くこの二人と行動を共にしていたけど、こういうことができるなんて知らなかった。シンが笑う。
「アッシュはできる手下どもを持って幸せだな」
「あったり前だぜ」
車から出てきたボーンズが鼻をこすりながら得意げに答える。
その時、知らない人が大声でぼくらに怒鳴った。
「お前ら何してる!そいつは俺の車だ!」
「英二!早く乗れ!」
素早く車の運転席に乗ったシンがぼくに叫んだ。ぼくは慌てて助手席に回って、その椅子に滑り込む。
「ここは任せとけ!」
コングがこの車の持ち主を羽交い締めにしていた。
「なんだかわかんねーけどボスを頼むぜ!」
ボーンズが助手席のドアを外から勢い良く締めてくれた。
「わかった。きみたちも気をつけて!」
シンが車を急発進させる。
ぼくはシンに聞いてみた。

「ラオがアッシュを刺した場所わかるかい?」
「ラオが倒れてた場所なら図書館の裏だ」
「早くそこへ!」
「言われなくても!」

シンがハンドルを切った。

ぼくらは、道路交通法なんておかまいなしに、追い越せる車を追い越していく。無視できる信号は当然のように無視した。
だけど、大通りの大きな信号だけは、無視することができない。
シンは舌打ちをして、ブレーキを踏んだ。
イライラとハンドルを指で叩きながら、信号を眺める。

「なぁ英二」
「なんだい?」
ぼくはシンを見る。
「お前、これが終わって未来に帰ってから」

その時、信号が青へと変わる。シンがまたアクセルを全開にした。

「話は後だ」とシンが言った。

そうだね。話は後だ。

ぼくは君とちゃんと向き合いたいと思う。ちゃんと君を見ようと思う。
これが終わって未来に帰ることができれば、ぼくは。ぼくらは……。







ぼくらは図書館の裏に到着した。車を急ブレーキで止め、そこから急いで降りる。

そこにはラオが壁に背を預けて座っていた。
ラオだけが。
彼の脇腹からは多量の血が流れ出していた。
シンがラオに駆け寄って、座り込むラオの体を抱いた。
「ラオ。目を開けろ、ラオー!」

ああ。間に合わなかった。二人がやり合う前にここに着きたかったのに!

ぼくはラオを抱くシンの隣に立って彼らを見下ろした。
「シン。ぼくは図書館へ行く。きみはラオを」
シンがラオを抱いたまま、ぼくを見上げた。
「おれも行く」
「ダメだ。きみも後悔しただろ」

ぼくが後悔したように、シンも後悔したはずだ。

どうして二人を止められなかったのかと、どうして二人を助けられなかったのかと。
夜眠れないほど考えて、朝起きて、またその現実に絶望する。何度も何度もあの日に戻りたいと。あの日に戻れば必ずぼくは―― 

「ぼくはアッシュの元へ行く。図書館の玄関はすぐそこだ。きみはラオを助けるんだ」
シンはあの車でラオを病院に運べばいい。
「わかった。……この先に公衆電話があったはずだ」
シンはそういってポケットから出したコインをぼくに渡した。それでアッシュのために救急車を呼べということだろう。
「ありがとう」
そうしてぼくは正面玄関まで走っていく。振り返りはしなかった。

だけど、ぼくはすぐにスピードを落とした。いまだに続く頭痛のせいなのか、スピードが出なかった。
図書館はここなのに。ぼくは図書館の壁に手をついた。
すぐそこの角を曲がると正面玄関が見えてくるはずだ。ぼくはなるべく早く歩こうとした。

角を曲がると、シンに言われたとおり公衆電話を見つけた。ぼくはボックスに入る。911に電話をかけた。
「市立図書館で人が血を流して倒れています。至急救急車を」
ガチャリと電話を切る。無駄な時間なんて一秒もなかった。

ぼくは精一杯走ろうとした。未来のぼくより若いはずなのにスピードが出ない。何故だ。
ぼくは左腹を手で抑える。ぬるりと湿った感触がする。手のひらを開いて見てみた。
手術後の傷がまた開いたようだ。
ぼくは自分の血で赤くなった手のひらを握り込んだ。
ひどい頭痛がする。そのせいか脇腹の痛みはほぼ感じなかった。
これくらいなんだ。いまアッシュはどれだけ血を流しているんだろう。
アッシュ―― 
思うようにぼくの足は動かなかった。
ぼくはふらつきながらも走って……歩いていく。

階段をフラフラとのぼり、正面玄関からエントランスホールに入り、図書室のドアを開けた。

今度のぼくはアッシュを探さなかった。

ぼくは、数日前に見たその場所へ重い足を運んでいく。

とある机の隣でぼくは止った。

「アッシュ。見つけた」

アッシュは机に突っ伏していた。とても満足気で柔らかい表情。その手にはぼくが書いた手紙が握られていた。
「会いたかった」
この日のこの時間のこのきみに。
「手紙読んでくれたんだね」
でもこの手紙がきっときみに隙を与えたんだ。

アッシュの足元を見た。赤い血がアッシュの脇腹から腰を流れ椅子を伝い、床に少し溜まっていた。だけどうまくたわんだ薄手のコートに隠されて、外から見るとその血溜まりは目立っていなかった。だから誰もアッシュの怪我に気づかなかったのだろう。
ぼくの脇腹のほうがよっぽど真っ赤で目立つかもしれない。
ぼくは隣に座り、アッシュの肩をそっと抱いた。
「救急車呼んだよ。きっともうすぐ来てくれる」
ぼくの囁いた言葉に、隣に座って読書をしていた人が何事かと本から目を上げた。
ぼくはアッシュの指からそっと手紙をはがした。そんなものを持つのなら流れる血を抑えればいいのに。
ぼくの頭痛は最高潮に達した。
痛すぎて頭が上がらない。ぼくも机に突っ伏しそうだった。
だけどぼくは少しでも彼の流れる血を止めようと、彼の脇腹に手を伸ばす。

もう少しがんばって。救急車がくるから。

隣の人が誰かを呼ぶ声がした。司書を呼んでいるのだろうか。
ぼくらの周りの人達が立ち上がり、また足を止め、人だかりでもできているのだろう。何かの影に隠れたかのようにぼくの視界がだんだ暗くなっていく。隣にはアッシュの綺麗な顔がある。その瞼はやはり閉じられていて。その瞳の色はやはり見えなかった。ぼくはその色をもう一度みることができるんだろうか。
その瞳でぼくのことを……。


遠くにサイレンの音がしてそれが止まった。


早く、早くアッシュを助けて。


とうとうぼくの視界が真っ暗になった。暗闇の中できみの流れる血を押さえる手の感触だけが残る。


ぼくはなすべき時になすべき事をできたんだろうか。


ぼくは、今も昔もいきあたりばったりで、できないことが多いんだけれども。





神様、どうか彼を助けてください。





続く
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